Dk部へようこそ2

 放課後、僕は先日入部したDk部の活動をしている。活動内容は、ただ一つ。読書をすることだ。基本的に読書対象の本に制限はないけど、主にラノベを読んでいる。
 入部して間もないけど、放課後のこの時間が楽しみだ。
 さあ、今日も本を読もう。
 楽しみを胸に、今日もDk部のドアを開けた。
「こんにち……」
 ドアを開けて、飛び込んできた光景に、僕は続く言葉を飲み込んだ。
 何事もなかったかのように、一旦ドアを閉める。
 いや、まさか。
 ありえない。
 そんなことがあるわけがない。
 自分を説得するように言い聞かせて、頭を振る。
 うん。もう一度。ドアを開けた。
 さっきと何も状況は変わってなかった。変わらないことがこんなに残念だなんて。
 夢ならよかったのにな……。それでも悪夢かも知れない。
 部室の中央にあるテーブルの対面にはいつも通りでるた先輩とこんこん先輩が椅子に座って読書をしてる。
 ここまでならおかしいことはない。
 けど、おかしいんだ。なんでこんこん先輩は全裸なんだ!!
 こんこん先輩は全裸で、なんか分厚い本を読んでる。でるた先輩(こっちはちゃんと制服着てる)も別に気にしている感じはない。……もしかして、でるた先輩はこんこん先輩の裸を見慣れてる?
 こう同じベッドの中で、
 ――飲み込んでボクのiPhone
 ――おいででるた、ワタシのドックに。
 変な妄想が!! 落ち着け。落ち着け。まずは状況確認だ。状況が飲み込めない僕に気がついたでるた先輩が、
「そんなところに突っ立ってないで、なんか読んだら?」
「いや、あの……」
 僕がおかしいのか? 疑いながらでるた先輩に近づいて、疑問を打ち明けてみた。
「でるた先輩、なんでこんこん先輩、全裸なんですか?」
「何を言ってるんだ。こんこんさんが全裸のわけがない。なにか、君はそこに座ってるこんこんさんの全身をくまなくみて、全裸と確認したの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
 なんで僕が責められてるような雰囲気なの?
「少年、一体いつワタシが全裸だと判断したのかな?」
「あ、聞いてたんですね、こんこん先輩」
「全裸、全裸うるさいから嫌でも聞こえてきた。さあ、確認するがいい、ワタシが全裸かどうかを!」
 こんこん先輩はそう宣言すると、勢いよく立ち上がった。
「うわぁー!!」
 思わず声をあげてしまったけど、確認すべき所をしっかりと確認した自分が嫌だった。
 立ち上がったこんこん先輩の下腹部は、あれ……モザイクが掛かってる? ゴシゴシと目を擦って再度確認するけど、やっぱりモザイクが掛かってる。
「そんなに注視するな、恥ずかしいだろ。ほら、ワタシは全裸じゃない」
「どこからツッコんだらいいんですか? とりあえず、なんでモザイクが掛かってるんですか? いや、それよりもなんで全裸なんですか?」
「ふむ。疑問はふたつか」
 妙に落ち着いたこんこん先輩は椅子に座った。僕も座るように促される。
「まず一つ目の質問への答えだ。このモザイクはゴッドモザイク。天照系列の光学系術式だ!」
「すみません。意味がわかりません」
 なんだよ光学系術式って。異能なの? 異能? この世界は学園異能にシフトしたの?
「こんこんさんの言うことを気にしたらダメだ」
 でるた先輩の言葉に同意して、続く言葉を待った。
「二つ目の質問はなぜ全裸だったのか? だな。ワタシが今読んでるのは境界線上のホライゾン2巻下だ。葵・トーリが全裸だから、ワタシも全裸で対抗だ!」
「もっと意味がわかりません」
 というか、今、全裸って認めなかった?
 でるた先輩に同意を求めようとするけど、でるた先輩は小さく首を振ってるだけだった。
 もう僕も諦めて、読書しよう。全裸とか気にしたらダメなんだ。
 今日は、最近、アニメが放送されていたIS<インフィニット・ストラトス>を読もう。読書中のBGMは運動部のかけ声や、でるた先輩とこんこん先輩が本のページをめくる音だ。
 僕がIS<インフィニット・ストラトス>を半分ぐらい読んだところで、こんこん先輩もでるた先輩も一冊読み終わって、次の本に取りかかろうとしていた。
「先輩達って、これまで何冊ぐらい本を読んだですか?」
 僕の言葉にこんこん先輩が、本から視線を上げて、こっちをみた。
「少年。なら、生まれてから今まで読んだ本を覚えているのかい?」
「……えっと」
 正確に覚えてるわけがない。本というカテゴリに含まれるものにどれだけ接してきたかわからない。
「いいえ」
「つまり、そういうことだ。なあ、でるたん?」
 同意を求めるこんこん先輩の言葉を無視して、でるた先輩は読書を続ける。こんこん先輩はでるた先輩の背後に近づいて、
「今まで読んだ本の数を覚えているか、でるたん」
「顔を近づけるな。息を吹きかけるな。気持ち悪いんだよ。モザイクあってもぶっちゃけ全裸なんだからやめろ!」
 ものすごい早く口でどこかで聞いたことがあるセリフを口にして、椅子から立ち上がりこんこん先輩から距離を取った。
 この二人、なんだかんだで仲がいいような。
 でるた先輩の反応に満足したのか、こんこん先輩が自分の席に戻る。
「無視するのがわるい」
「集中してて聞こえなかったんだよ!」
 警戒しながらでるた先輩も自分の席に戻った
「そんなことはどうでもいい。で、何冊今まで読んだ?」
 でるた先輩は顎に手を当てて考え始めた。
「質より量なのよ!」
 でるた先輩はありもしない小さな胸を張って偉そうに言った。
「……へぇー」
「反応うすっ!」
「いや、でるたんが、桜野くりむみたいなセリフをいっても……と思って」
「ところで君はどうして急に読書数なんか気になったのかな?」
「先輩達って僕が一冊読む頃には二冊は読み終わってるじゃないですか。毎日そんなペースだからどのぐらいなのかなと思って」
「なるほど」
 こんこん先輩が頷いた。
「つまり、読書数に劣等感を抱いたわけか。そんなことを気にすることはない」
「年間千冊読むこんこんさんが言っても、説得力ないよね」
「だまれ、鬼畜でるた」
 やっぱりこの二人仲悪いんじゃないかな?
 じゃあ、と、こんこん先輩が本の山の中から取り出したのはさっきまでこんこん先輩が読んでいた境界線上のホライゾン2巻下だ。決してライトとは言えそうもないけど、ライトノベルだ。
「これは川上稔境界線上のホライゾン2巻下だ。電撃文庫最厚記録1154ページ。ちなみに川上稔によって書かれた終わりのクロニクル最終巻7巻も電撃文庫最厚記録を持っていた。少年なら、読みたいと思うかい?」
「正直遠慮したいです」
 どうみても、あの厚さを読破できる自信がない。しかもシリーズ物ということは、他の巻も厚いんだろうし……。
「ボクは後回しにしたいな。終わクロやホライゾンを一冊読む間に三冊読める!」
「でも、これを嬉々として読む人もいる。その人達にとってはこんなに厚くてもとても魅力的なんだよ。他の本が三冊読める時間が必要だろうけど、ファンはこの本を読む。だから読書量を気にする必要はない。でも、問題は少年が夢中になれる作品に出会えるかどうかだと思う」
「ボクはエロい話がいいな。NTRとか!」
「でるたのえっちぃ」
「こんこん先輩がシャルのセリフいうのは勘弁してください。なんかシャルが穢れる」
 思わず僕は思わず抗議した。
「失礼な。むしろサウザンドマスターが使ったのだから、喜ぶべきだ」
 この人のこの自信はなんだろう……。
 まあそれはともかく二人の先輩がたくさん読むのは、二人が夢中になれる作品に出会えてるからなんだ。
「オススメの作品ってなんですか?」
「うーん、ボクは狼と香辛料かな」
「わっちか! わっちか!」
「だまれ、こんこん」
「じゃあ、こんこん先輩は?」
「オススメ聞いてる暇があるなら自分で好きなものを探せ。だからもっとラノベを読め」
 すごくいいことを言ってるような気がする。
 だが、全裸だ。
 読書量よりも、自分が好きな作品に出会うために読む。出会えたらその作品を追いかけて、完結したら、また新しい作品と出会うために読む。
 だから、僕も一冊でも多く本を読もう。